ジョセフ・ジョースターとルルイエ異本


1949年のこと。 ジョセフ・ジョースターは29歳。赤石を巡る激しい戦いを生き残り、スージーQと結婚して10年が経過していた。 スピードワゴンに借りた資金を元に始めた不動産業も軌道に乗り、 今ではニューヨークの不動産売買業者の中では、ジョセフ=ジョジョの名を知らぬ者はいないだけのやり手となっていた。 (要らないと言われたが、当然既にそのときの借金は返済している) 1942年には愛娘も生まれ、七歳となった今では大分手も掛からなくなっていた。 生母のリサリサ(エリザベス)も昨年再婚し、息子である彼とは別の人生を歩んでいる。 そんな時期であったから、ジョジョは一つの計画を立てていた。遅ればせながら10年目の新婚旅行である。 「スージー、旅行でも行こうかと思うんだが」 「旅行?」 「仕事も軌道に乗ってるし、社員も優秀だし、俺が少しくらい居なくてもどうとでもなるだろ。  ホリィはエリナおばあさんのトコに預けて、『豪華客船』とかでヨーロッパまで行かねーか?  俺達の出会ったイタリアや、オレの故郷のイギリスとかによ」 「いいわね、それ!」 「戦争のゴタゴタで新婚旅行なんか行けなかったからよぉ、10年目の新婚旅行ってところだぜ」 スージーが賛同したため、二人の結婚10年目の新婚旅行は決定した。 「趣味のわりぃ名前だな、レオなんてよぉ」 全長300メートルを超える大きな楕円形の風船を仰ぎ見たジョジョが、 冗談めかしにスピードワゴン財団創始者、レオ・スピードワゴンに悪態をついた。 「仕方なかろう。どうしても財団創始者の私の名前を使いたいと言われたのだからな」 「豪華客船が飛行船だったなんて、ワクワクするわあ」 スージーが妙なハイテンションで飛行船を見上げていた。 飛行船レオ。石油王スピードワゴンが作り上げた飛行船だ。 1937年5月6日にニューヨークで起きた大惨事、ヒンデンブルク号炎上事故から飛行船を開発する物好きはほとんど現れなかった。 客船としての命はヒンデンブルク号と共に燃え尽きていたが、軍事利用するための飛行船の研究は続いていた。 飛行船の開発は市民の目に触れないところで行われつづけていたのだ。 さて、この飛行船レオ号。石油王レオ・スピードワゴンの財団が作り上げた最新鋭硬式飛行船である。 軍事利用の飛行船が軟式飛行船であったことに対し、 硬式の大型飛行船としては、ヒンデンブルク号以来、12年の歳月を経過してようやく登場した飛行船であった。 ここはアメリカ、ダラスの広大な荒地。周囲に建物はなく、巨大な飛行船が飛び立つには都合の良い場所だった。 ジョジョとスージーは、この飛行船の処女航海で新婚旅行をしようというのである。 「でもさあ、飛行船って不吉な乗り物だと思わない? ヒンデンブルク号の事故ってインパクトのあるニュースだったじゃない?  これも燃えたりしないの?」 スージーはあっけらかんとした口調で、原子爆弾よりも強烈な一言を投下した。 「何で今から乗ろうって船を前に、よくもそんなこと言えるもんだぜー」 ジョジョはスージーの性格を良く知っていたから、目くじら立てて文句を言うことはなかったが、それでも嫌な気分になるものだ。 「あのなあ、この飛行船は水素ガスじゃなくてヘリウムガスだからよ、ヒンデンブルク号みてえに炎上することはねえぜ。  そもそも安全性じゃ、飛行機よりも高いはずなんだからな」 「でも、中の空気が抜けたら墜落しない?」 「分かってねえな。こいつは硬式飛行船って奴で、バルーンの中身が何個もの部屋に仕切られててー、だな、  一つくらい穴が開いたところで、航行には支障をきたさないんだぜ。そもそも飛行船ってのは──」 将来の夢がパイロットだったジョジョは、飛行機だけでなく飛行船にも詳しかった。 彼にしては珍しく熱弁を振るって、スージーに説明した。 それでも、理解できるまでには結構な時間を要し、その間に飛行準備はすっかり終わっていた。 「それじゃ、行ってくるぜ、スピードワゴンのじいさん」 ジョジョはスピードワゴンに片手を上げて挨拶する。 「気をつけてな」 「オレが操縦するんじゃねえから気をつけようもねえよ」 「ありがとね、スピードワゴンさん」 スージーもジョジョの横に立ち、両手を大袈裟に振っている。 飛行船レオの乗降口に立った二人の視線が少しずつゆったりと上昇する。 「キャーキャー! 浮いてるわよ!」 「飛行船は浮くもんだ」 「キャーキャー! 飛行機よりも気分がいいわよ。風も感じるし!」 「乗降口、開いたままだからな」 「すごいわあ! 本当に!」 スージーははしゃいで乗降口から大きく身を乗り出して下を眺めた。 見送っていたスピードワゴンの姿もせわしなく働いていた飛行船レオのスタッフも、ゆっくりと小さくなっていく。 高度は既に200メートルを越えていた。 「バイバーイ! スピードワゴンさーん!」 スージーが身を乗り出したまま『両手』を振った。 「え?」 スージーはバランスを崩して乗降口から投げ出される格好で宙に舞う。 大きく身を乗り出した状態で両手を離せば当然そうなることに、残念ながら彼女、スージーQは気づかなかったのだ。 「キャアァァァァァァ!」 スージーはまぶたを閉じて金切り声を上げた。 「叫ぶなッ! うるさいッ!」 「落ちるうぅぅぅぅ!」 スージーはまぶたを閉じたまま全身をバタバタと動かした。 「暴れるなッ!」 「落ちて死んじゃうぅ!」 「黙ってろッ! このアマッ!」 「え?」 スージーがまぶたを開けると、飛行船の客室ゴンドラの床にうつぶせになったジョジョが、スージーの手首を掴んでいた。 「ジョジョッ!」 「まったくドジなんだからよぉ! 待ってろ! 今、引き上げてやるからなッ!」 ジョジョは両腕に力を込めて一息にスージーを引き上げたが、ジョジョは空と相性が悪かった。 これまでの29年の人生で、既に二度も飛行機で墜落している。飛行船でも相性は最悪なようだ。 夢を叶えてパイロットにならずに正解だ。パイロットになっていれば、彼は早死にしたに違いない。 「おおお?」 スージーを客室に引き上げた瞬間、飛行船が風で少し傾いた。ジョジョは床を滑って乗降口から落ちる。 相性の悪さもここまでくれば立派である。 「えええ? 逆になってるぅ」 気づけばスージーが乗降口の床に寝そべって、空に投げ出されたジョジョの手首を掴んでいた。 立派な相性の悪さの為に、生死の境をまさに踏んでいた。 「おい! 離すなよ! 離すなよ! 離すなよ! 俺は落ちたくないッ!」 ジョジョは風に煽られてじたばたした。 「暴れないで、掴んでいられないでしょ」 「離すなよ! いや、少しだけ引き上げてくれ! ゴンドラに手が届けば、オレ一人で戻れるッ!」 ジョジョは慌てふためいた様子でまくしたてる。 「静かにしててよ」 まるっきり立場が逆転している。 「早く少しだけでいいッ、引き上げてくれッ!」 「無理よ。あなた、大きいんですもの」 スージーはジョジョの腕を掴んでいるので精一杯だった。 「そうだ! 誰か呼べ! 乗務員がいるはずだろ?」 「う、うん」 スージーはジョジョの腕を離して立ち上がると、客室内部に大声で──。 「おい! てめーが離したら、オレは落ちるじゃねーかッ!」 「あ、ごめんなさいーッ!」 「オォーノォー! 信じらんねーッ! 何考えてんだこのアマ──!」 ジョジョは悲痛な叫びを残して飛行船から落下した。やはりジョジョは空から落ちる運命だった…… ジョジョ、ジョセフ・ジョースターは宇宙に居た。 目の前を流れる、今までの自分の人生を見ていた。 奇妙な事に、その人生は、飛行船から後の人生−孫の誕生、ある女性との浮気、復活したDIOとの死闘……等々−が存在していた。 さらに奇妙な事が起きた、数秒で自分の人生を見終わったかと思えば、次々と自分ではない者の人生を垣間見た。 祖父であるジョナサン・ジョースター、その父ジョージ・ジョースター、師ウィル・A・ツェペリ、親友スピードワゴン…… そして自らの父であるジョージ2世、その妻であるリサリサ、10年前に死闘の中で命を落としたシーザー…… かと思えば、今度は娘、ホリィの人生、その息子である空条承太郎、浮気相手の息子仗助、承太郎の娘であり、自らの孫である徐倫。 それらに関する無数の人生を見。 そして世界は爆砕し、再び、誰かの人生を見る。 繰り返し生き、繰り返し死ぬ、死すら超越した二人の人生を。 「死んだかな?」 額とこめかみの中間点に手を当てて言ってみた。 「いや、君は死んでいないよ」 女の声が聞こえた、勿論、スージーの声ではない。 「誰だい、あんた」 振り返って聞いた。 「うーん、そうだねぇ、とりあえず、ナイアと呼んでくれないかな?」 ジョセフの真似をしながら彼女は言った。 「ナイアねぇ……で、これはどうなってるんだか説明してくれ」 「簡単に言うとね、別世界に飛んじゃったんだよ、君は」 「別世界だぁ?」 「そう、君の現実と薄皮一枚隔てて存在する世界、そこに君はとばされようとしているんだ、ここは、その薄皮の中、かな」 「そ、それで、どうなるんだ?」 「どうもしない、君は君として存在するよ。ただし、君が存在する場所がその別世界に移ると言うだけさ」 「だけって、そりゃ一大事だろうが」 「大丈夫大丈夫、それでね、その別世界で君にやってもらいたい事があるんだ」 「何だよ?」 「運命をねじ曲げて欲しいんだ」 「運命を、ねじ曲げる?」 ジョセフが、いぶかしげに聞く。 「そう、君は見たはずだ、死を超越し、正義のために、悪のためにただひたすらに生を無し、生き抜き、戦い抜く二人を!  その両者の運命を、より楽しく、より過激に彩って欲しい!」 「……正気か?」 どう考えても、後に『自分が読む事になる』日本の漫画の一節を用いれば、『電波入っちゃってる』状態の人間にしか見えなかった。 「とっても、とっても正気さ、どちらにしろ、望むと望まぬとに関わらず『君は彼らと出会う』はずだから」 突如、足下が抜けたように、宇宙から落下していく。 「それじゃあ、よろしくね、楽しき別の人生を」 ナイアと名乗った女は、そう言ったような気がした。 腹からプールに飛び込んだ時よりも激しい水柱が上がった。 「プハァッ!」 ジョセフは水面に顔を出して二酸化炭素を吐き出した。 「しょっぺえ! 海水かよ!」 ジョセフはすぐ近くのコンクリートに岸壁があるのを認めると、一息に泳いで海から上がった。 「ハァハァハァ……」 海水を滴らせたまま座り込んで息を整えるジョセフは、余りに腑に落ちないことが気になった。 「何だって海に落ちたんだぁ?」 ジョセフは空を見上げた。飛行船の姿はない。左右も見渡した。 スピードワゴンの姿はない。そもそも岩の剥き出しの荒野に落ちたはずなのに、海に落ちるなど考えられるはずもない。 「訳分からねえ……」 ジョセフは彼にしては珍しく一瞬の思考停止に陥ったが、すぐに気を取り直すと、最も近くに見える建物に向かって歩き出した。 「あれは……何かの事務所みたいだが、何か話が聞けるだろうな。  取りあえずここが何処かだけでも聞いとかねえと、スージーのところにも戻れねえからな」 「大体状況が掴めてきたぜえ」 ジョセフは自らの置かれている状況を素直に受け止めた。受け止めるだけの柔軟な頭脳を持ち合わせている。 「にしても、空から落ちただけでワープなんて、SF小説でも漫画でも読んだことねえぜ。驚きを通り越して『失笑』しちまうな」 海から上がったジョセフは、最も近くにあった空港で情報を入手していた。 「ここは何処だ?」 「何処っておまえさん、ズブ濡れだが、船でも沈没して記憶喪失になったのか?」 「そんなところだぜ。で、ここは何処なんだ?」 ジョセフは好奇心を刺激されてキョロキョロと建物の内部を伺いながら尋ねた。 どうも、見たことのない機械ばかりがある。特に気になるのがデスクを占領している、 ボタンが百個以上も並んでいそうな不思議な板切れや、明るい絵を浮かべた箱だ。その横の0から9の番号が描かれたボタンが並ぶ、 人の顔より少し小さいモノは、何か見覚えがあるようなないような……受話器らしいものがあるから電話か……? 「アメリカだよ、アメリカ」 「アメリカのどこだ?」 「アーカムシティー近くのマサチューセッツだ」 「アーカムねぇ……」 名前はあの『夢のような時間』で聞いた事がある、ニューヨークからも近いからマサチューセッツには仕事で来た事もある。 だが、アーカムシティーという都市の名前は聞いた事がない。 少なくとも自分が『経験した』過去にはない。 「ん? んん?」 ジョセフは謎の機械類の乗ったデスクの上の、とある物に興味を示す。 「一つ聞きたいんだが、この2000って、なんだ?」 「はぁ? おまえさん。カレンダーだよ、カレンダー」  ゴクリ ジョセフは生唾を飲み込んだ。 「カ、カレンダーァァ?じゃあ、今年は2000年!?」 「……病院でも行くか? 海水をたらふく飲んでるみたいだしな、それも頭ミソが海水でピクルスになってるんじゃねーか?  いや、塩漬けだからハムか? それともアジアンの一部が食うっていう塩辛って奴か?」 「オォーノォー! ナンテコッター!」 ジョセフは両手で頭を抱えた。 病院に連れて行ってくれると言う、空港のスタッフの親切を丁重に断ったジョセフは、フラフラとした足取りで外に出た。 「本当に大丈夫か?」そんな呼び掛けに片手を振って答え、たった今、外に出てきたところであった。 「……意外と21世紀ってのも、進歩してねえもんだな。SF小説ってのは大袈裟に過ぎるようだぜ」 ちなみに2000年はまだ20世紀である。 だが、この物語においてはジョセフの主観が多く挿入されるため、全て21世紀と表記されている、ご了承頂きたい。 建物の中には不思議な意味の分からない物は多々あったが、極端に科学が進歩しているようには見えなかった。 「でもよぉ、これからどうすりゃいいんだ?」 状況を納得して受け入れることと、状況を脱却するということは全くの別問題だった。 未来という物に興味はあるが、こんなところに一生過ごすのはご免こうむりたい。 そして、あの夢のような時間が夢じゃないとすれば、ここが恐らく別世界であると言う事だ。 「また高いところから飛び降りる…、のは怖いしな……今度は本当に死ぬかも知れねえ」 ジョセフは頭をガリガリと掻いた。 「OHHH! MY! GOOOOOOD!」 悲痛な叫びとは、こんな叫びを言うのだろう。 空港に銃声が鳴り響いた。 「クッ、まさか、『アンチクロス』が出てくるとはな……」 魔道書『密林の人狼』と機関銃を携えた男が吐き捨てた。 仲間は全員殺され、しかも追撃してきた男は無傷だった。 「お主では足止めにもならぬぞ、さっさと立ち去るならば、命までは取らぬ、拙者とて鬼ではない、  餓鬼道に堕ちようと、誇りを汚すほどの弱者をいたぶる趣味はない……さっさとアレを返して頂こうか」 彼、ティトゥスの頭をよぎるのは、僅か二人、自称三流探偵と、そして覇道邸の執事だけだだった。 それでも、男の意思は揺るがない、震え、怯えながらも強固な意志を持って彼を睨み付けてくる。 「Wolfshead!」 機関銃を投げ捨て、男が叫ぶ。 叫ぶと同時に男が分解、同時に再構築され、人狼の姿に再構築される。 「その強き意志、我は貴公を敬す!」 「その言葉、貴様が墓場まで持っていけ! ティトゥス!」 右の爪と刀が交差する。 高速の一撃は知覚と同時、既に条件反射となって互いの体を切り刻む。 だが、その中においてなお、ティトゥスは笑っていた。 「御首級、頂戴」 瞬時の間に、首が飛んだ。 彼の体から、さらに二本の腕が生えていた。 「さて、大導師殿のおっしゃった代物、魔法書の反応は……」 全身から、血を流しながらティトゥスは平然と呟いた。 「あいつら一体何してやがんだ?」 タイムスリップなどと言う、余りにぶっ飛んだ状況を知ったジョセフが空港を出ると、何やら争うような物音を耳にした。 興味本位で管制塔の影から遠巻きに眺めていると、恐ろしい光景が繰り広げられた。 機関銃の掃射に平然としている男。叫ぶと同時に狼に変身する男。手品のように『腕が4本に増える』謎。 「何だってんだあれはよぉ……」 最後に残った一人が頭を垂れているシーンを、ジョセフは建物の影から黙然と眺め続ける。 「21世紀ってのはシュールな世界だな……剣を持つと腕が四本に増えるのか?」 勘違いも甚だしい感想を抱いたジョセフは踵を返した。 「ま、死んじまった奴には悪いが、一方的な虐殺って訳でもねえし、オレにはかんけーねーか。  元の世界に戻る方法を考えるのが先だからな。  まあもっとも、一方的な殺しなら、オレも黙ってられなかったけどよ」  コン、カラーン、カン、カン、カラカラカラ。 前方に転がる空き缶を間の抜けた表情で追い掛け、次いでジョセフは慌てふためいた。 「ゲッ! 何だってこんなところに缶がッ!?」 ジョセフは踵を返して一歩歩き出した途端、空き缶にキックを放ってしまったのだ。 「ゴミはゴミ箱に入れろよ、まったくよぉ……あの男には聞こえてねえだろうなあ?」 恐る恐る振り返ると、遠くにギラリと瞳を、そして刀を向けた男と眼が合った。 「オーノー! やっぱ聞こえてるッ!」 男はジョセフに向かって駆け出して来た。 「どうする!?」 ジョセフは思考を巡らせた。今まで見ていたものは、奇妙なシーンの連続だったが殺し合いには違いない。 その現場を見られて、オレを素直に逃がすか? 普通!? ……逃がさねえよなあ。じゃあ、戦うか!? って、21世紀でトラブルを起こすのもマズイかも知れねえしなあ。 タイムパラドックスがどうのこうのとか読んだことあるしな…… でもそれは過去を変える場合だったか? 未来を変えた場合はどうなるんだ? 「今の現場、見られていたか……」 逃がしはしないとの意思を感じさせる口調で、男はジョセフの数メートル前方で直立していた。 (ええと、こんな時はどうやって言えばいいんだ?) ジョセフは十年前の戦いのカンを取り戻す必要を覚えた。 (ヤバイな……最近、頭を商売にしか使ってなかったから、いい台詞が浮かばねえぜ。  商売の駆け引きは手馴れたが、戦いになりそうなときの駆け引きってのは、どうやればいいんだったか……) それでも脳細胞がパンクしないところが、ジョセフのジョセフたる所以であった。 (それにしてもパラドックスっての、起きたらどうなるんだぁ?) 慌てることと焦ることはジョセフにとってイコールではない。焦りは全くない。 (考えてもしゃーねーな、オレが21世紀にいるってだけで、もう起きちまってるようなもんだしな) 現状打破には役に立たないことを頭に思い描きながらも、同時に男をつぶさに観察することは怠らないジョセフだった。 1、この男は何者だ? 2、目の前にいる男が殺した? と思しき狼みたいな男とこの男の関係はなんだ? そしてこれが一番重要だ。 3、この男はオレに殺意があるのか? うーん、どうだろうな。 ジョセフは目の前の男の顔色を伺う。 年の頃28〜30歳といったところか。21世紀の人間が20世紀の人間と同じであるなら、だが。 (何と言っても、腕が生えるシーンを見ちまったからな。  21世紀の人間がオレと同じとは限らねえか……って訳もねえよな、アホらしい) ジョセフに限らず、ジョースター家の人間の頭の回転は人並み外れて早い。 特にジョセフは状況を打破するに不必要なことを考えながらも、それが無駄な時間の浪費とはなっていなかった。 まずは、1の答えだな。 この男の雰囲気、とてもカタギとは思えねえ。何人もこんな連中を見てきたから分かるぜ。コイツ、ギャングか何かじゃねーか? いや、和服っぽい服を着ているから、そう、ヤクザって奴かもしれねー。 まあ、ギャングだって意味は同じだから大丈夫だろ。 2の答え。 この男がギャングなら、答えは一つだな。 殺された? 連中も同じギャングだろう。戦いに迷いが見て取れなかったことから、 仲間割れとかではなく、組織間の争いである公算が高いな。それとも、どちらかが組織を裏切った結果、か? 3の答え。 それはジョセフが推測するまでもなく提示されることとなる。 刀を鞘にしまって男が声を発する。 ジョセフは一瞬だけ気を緩めたが、油断はできない。 ティトゥスが静かに抑揚なく呟いた。 「我が餓鬼道は、譲れぬ道、覚悟の道、故に、行き止まりにしないためにも、目撃者、敵対する可能性のある者は、殺す」 斬りかかってくると予想したとき、やはり予想通りに刀が来た。 腕の水へ「はじく波紋」を集中させ、四本の刀をはじく。 だが、刀が四本、地面に落ちると認識したとき、もう一本の刀がジョセフに襲いかかった。 咄嗟に義手に波紋を集中、その一刀の衝撃を吸収させた。 だがそれでも奇妙な異音を響かせ、ジョセフの肉体が宙を舞う。不本意な空中遊泳を強要されたジョセフは、 低い弧を描く軌道に悲鳴の尾を引いてニュートンの発見した法則に捕らわれた。 鞘に収めたはずの剣が、再び陽光に煌めいていた。 ジョセフは海水を撒き散らせ、芝生に背中を強かに打ちつけた。 (何だってんだ一体よおぉぉぉ!) ジョセフは仰向けに倒され、胸中で怒りとも焦りともつかない叫びを上げる。 背中を打ちつけた痛みは影響が出る程ではない。剣で切られた事も怪我には結びついていない。 ハッキリ言って『身体』は無傷だ。しかし理解できないことが不安を生む。 ジョセフは自分の鋭敏な勘と柔軟な頭脳に自信を持っている。しかしそれは相手を知って初めて発揮される能力だ。 柱の男との戦いも、相手の能力を読み切れたからこそ、それを上回る策と駆け引きで勝利した。 だが、今は違う。この男が何をしたのか分からなかった。見えなかった。 この男は『腕を増やす』以外にも異常な能力を持っている! それが分かっただけでは、それに抗する手段を講じようにも情報が少な過ぎる。 となれば、取る策はアレしかないッ! オレが男なら、今の攻撃だけで殺せたとは考えない。確実に仕留めるために、倒れている相手にとどめの一撃を食らわせる。 目撃者を消すことが目的なら尚更のことだ。能力が分からずとも、相手の心理さえ読めば自ずと策は決するッ! ジョセフの頭脳は覚醒に向かいつつあった。人類の存亡を賭けた戦いのあの頃のように。 「胴体ではなくて、腕に当たった……我が刀から身を守るとはなかなかの武人だったのかも知れぬな、この男……」 ティトゥスは仰向けに倒れた長身の男にゆっくりと近づく。男はピクリとも動かない。 「しかし粉砕骨折と腕への致命傷は免れないはず……気絶したようだ」 空港の外れ、この周囲には自分と長身の男しかいない。 先のマギウスとの戦いにのみ集中し、周囲への注意を払えなかった時と異なり、今度は間違いない。 この不運な男を消し、魔法書を確保すれば全て終わる。 今まで以上に血塗られた道、より次元の高い闘争への道を進み始めることになる…… ティトゥスは刀を一本だけ握ったまま長身の男の右側に回り、彼の魔法書を取り出す。 『屍食教典儀』である。 屍食教典儀は、落とした彼の刀を回収し、本の中に圧縮された数文字として書き込んだ。 数行に圧縮された彼のデウス・マキナと同じように。 「ん? これは?」 ティトゥスは白目を剥いて倒れた男の身体に奇妙な個所を見い出した。 手袋をはめた左手がグシャグシャに潰れているにも関わらず、そこには鮮血の滲み一つない。 その上、彼の刀によってなお、切断されていなかった。 「仮に斬れていなかったとしても、骨は粉々に砕かれ、腱も筋肉もズタズタになっておかしくないのに、どうして血が出ていないのだ?」 ティトゥスはそんなことを気にかける必要はなかった。 一息にデウス・マキナの拳で押し潰すか刀で胸を貫くべきだった。マギウスではない者に対する油断があった。 そう、それはウィンフィールドという猛者と出会ってなお、修正されていない彼の精神の傷であった。 「ヘヘヘ、オレの左手は義手なんだぜッ!」 男は叫ぶと同時に自分の上着の左袖を引きちぎると、その袖を鞭のようにティトゥスの首へ巻きつける。 ティトゥスというマギウスを持ってなお身を守る暇を与えぬ早業だった。 「海水による仄白の波紋疾走(スライトリーホワイトのオーバードライブ)ッ!」 ティトゥスのまぶたの裏に火花が踊り狂い、四肢を痺れが駆け抜ける。 刀を握り続けることもできなくなる程の衝撃だった。 「波紋を使うのは久しぶりだが、オレの上着は海水を吸ってるから、波紋伝導率も高くなってるぜッ!」 ティトゥスはスタンガンのような高圧電流を流す服の袖を剥ぎ取ろうとしたが、 意識が朦朧としてデウス・マキナを召還することもできなかった。 波紋疾走の衝撃でガクリと膝を折った男を見上げたジョセフは、男の首に巻きつけた袖を放して立ち上がる。 今度は男が芝生に倒れる番だった。遠心力を失ったコマのように男が芝生に倒れ伏す。 「気絶した隙に……逃げるッ!」 ジョセフは尻尾を巻いて走り出した。大袈裟に両腕を振って背筋を伸ばして空港の敷地外へとひた走る。 気絶した隙にもっと痛めつけることも考えられたが、この男に恨みはないし(義手は壊されたが)、 21世紀でこれ以上面倒に巻き込まれたくはなかったのだ。それに、波紋効果が全盛期と同じとは限らない。 一瞬で男が目覚めて、逆にまだ見た事のない奇妙な攻撃をされたら困るどころの騒ぎではない。困っている暇すらないかも知れない。 「追ってくるなよぉ〜。意味のねー戦いはゴメンだからなぁぁぁ」 ジョセフは自慢の健脚(逃げ足)である程度の距離を稼ぐと、男を振り返る。 先ほどの戦いの最中に壊れたコンテナから、本や装飾品がこぼれ落ち、壊れたり破れているのが見えたが、気にしている余裕はない。 気絶したままであれば問題はないし、意識を回復したとしても、追うのを諦めてくれれば一件落着だ。 「21世紀から帰る手段がねえと、一件落着じゃあねえけど……」 ジョセフは男が頭を何度も振りながらゆっくりと起き上がる様を視界の隅に捕らえた。 まだ、充分な回復はしていないようだ。これなら逃げ切れるッ! 「じゃあな〜〜、サムライガンマンッ!」 ジョセフは調子良く手を振っておどけて見せたが、男の前に少女が不意に現れた。 「……んんん? どうなってんだよ、こいつは…?」 「おい、女ッ! そんなところにいるんじゃねーッ! どこから来やがった!?」 「……ハッ……?」 水着と見まごう程に薄着の少女が、空港の芝生の上に座っている。 どこから来たのか? いつの間に現れたのか? 瞬間移動してきたかのように、何の脈絡もなく少女が現れたのだ。 荷物の詰まったコンテナの中に居た、と言うわけでも無かろうに、いつ、どこから現れたのか。 ジョセフにはさっぱり見当もつかない。21世紀にはジョセフにとって理解できないことが多過ぎた。 「あぶねーッ!!!」 ジョセフが宙を掴むような仕草で叫ぶ。少女の背後の男が、おもむろに少女の首筋を右手で掴み、左手をねじり込むように後ろに固める。 「痛ッ!」 少女が短く悲鳴を上げた。 「この女は人質……おまえが逃げればこの女を殺す!」 男の瞳は真っ直ぐにジョセフを見据えていたが、もやが掛かったように暗く沈んでいた。 「……ティトゥス……何なのよ!?」 「静かにして頂こう『ルルイエ断章』、拙者は貴殿の護衛ではなく、追っ手である」 「……」 抑揚のないティトゥスの言葉に、ルルイエ断章と呼ばれた少女はただならぬ雰囲気を感じ取り、無言で瞳を周囲に走らせる。 彼女の視界の隅に、それはあった。 「ハインツ?」 人狼の着ていたスーツの切れ端が転がっていた。 「拙者が殺した。ハインツだけでなく、我々に反抗した連中は、全て、だ」 スーツだけでない、シアエガの魔法書『Daemonolatreia(悪魔崇拝)』も、エディス愛用の万年筆も落ちていた。 「ティ……トゥス……まさか、本当に……」 「おいおいおい!」 ヤバい雲行きであることは分かるのだが、ジョセフは状況を正確に把握することができなかった。 「オメー、ティトゥスって言うのか? 何二人で話してんだよ、意味分からねーぜ!」 「分からないのならばもう一度言おう……この女は人質だ」 「なに考えてんだオメーッ! オレはそんな女は知らねーぜ! 無関係の女なんて人質にとるんじゃねーぜ!」 「拙者は貴公を『試す!』おまえがどの程度の男かをな」 ……10年位前にこんなことがあったような気がするな。 ジョセフは嫌な過去の映像を脳裏に映し出していた。 おっと、今は21世紀だから、60年以上前になるのか? 「この見知らぬ女を見捨てて逃走すれば、その程度の男と思いもうお主を追わぬ!  『表の世界』に今回の件を明るみにするような男ではない!  だが、この女の為に向かってくるとあらば、それはおまえの性格を証明するということだ。  我々ブラックロッジの将来にとってつまらん障害になるかもしれん。今ただちにおまえを始末する!」 ヤベぇな、こいつはよぉ…… 「5秒後にこの女を殺す、逃げるか向かってくるか決めろ!」 ううう、何でこうついてねーんだ、オレは…… 分かっている、分かっているのだ。 あのストレイツォがそうだったように、このティトゥスと言うらしい男の口調、表情、仕草、物腰それらが全てを物語っている。 『躊躇せずに事を起こす』であろうと。 少し離れた場所から見ても、少女の瞳は大きく見開かれ、うつろな影を落としていく様子が分かる。 男の右手に力が入っているのだ。 「野郎ッ! 首をッ!!」 もう、ためらっている時間はない。 ジョセフは奥歯を鳴らすと、拳を握り締め、雄叫びと共に走り出した。 ティトゥスは自分の冷酷な行動を前に歯ぎしりの音を立てる男の瞳を静かに見据えた。 「オレには関係のねえことだったが……ゆるさねえッ!! てめ──ッ! 性根まで人間じゃあねえッ!!」 「……」 ティトゥスは鷹のように鋭い視線を浴びせながら突進してくるジョセフに動じることなく、 全身の力が抜けたルルイエ断章を静かに後ろへ寝かせると、その隙に肉薄していたジョセフに振り返り、構える。 「貴公のその行動……」 そう……その激情が正しき方角を向き、自分のためではなく人のために行動できる者…… 「……拙者は敬意を表す……」 迫り来るジョセフを見つめたティトゥスの瞳と言葉には、彼に対する憧憬と畏敬の念、そして少しの憐れみが含まれていた。 「だがッ! 死ぬのは我が力を知らぬ貴様の方だッ!」 ビシッと人差し指をジョセフに向けたティトゥスに呼応するように、ジョセフも人差し指を突き出す。 「ぶっ飛ばしてやるッ、ティトゥスッ!」 「デウス・マキナ……」 ティトゥスは微妙に奇妙な『モノ』に気づき、一瞬脳裏でクエシュチョンマークを明滅させる。 「水の……いや、水なのか?」 自分を指し示すジョセフの人差し指に、水をゼラチンで固めたような物体がプルプルと振るえている。 ティトゥスの瞳は磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、その不思議な物体に引き寄せられた。 「ヘヘヘヘヘ……こんなモン見たことねえだろ? 近寄ってよーく見てみるか?」 ジョセフの含み笑いがティトゥスの耳に届くと同時に、至近に迫っていた指先の水が爆発した。 「クッ!」 ジョセフの指先でプリンのように固まっていた水が爆発し、コップからぶちまけられた水のようにティトゥスの顔面を水浸しにした。 『人間』の持つ反射行動のため、望みもしていなかったにも関わらずティトゥスは一瞬だけ両目を閉じる。 「小細工をッ! 皇餓ッ!!!」 ティトゥスは塩味のする水を舌に感じながらも皇餓の腕だけを召還し、闇雲に皇餓の拳を振るった。 瞳を閉じてしまった隙に懐に飛び込まれ、再びスタンガンのような衝撃を与えられては敵わない。 それに刀がなかろうとも、拳が一発でも当たれば自分が圧倒的な優位に立てるのだ。 たとえ直撃で無かろうとも、人間に直撃すれば当たった箇所は吹き飛ぶのだから。 闇雲に前方を幾重にも薙いだ皇餓の拳は、確かに空気以外のモノを捕らえた。 しかし余りに手ごたえがない。 暖簾に腕押し……ティトゥスはそんな言葉を思い出したが、洗濯物を手で押したような感覚しか伝わってこない。 視力を回復したティトゥスが見たものは……皇餓の拳−正確に言えば人差し指−にぶら下がっていたジョセフの上着だけだった。 ティトゥスは慌てて左右を見渡したが、大男の姿はどこにもない。 まぶたを閉じた一瞬にして、遮蔽物がすぐ近くにない空港の芝生から消えてしまった。 「どこへ消えたんだッ!?」 「こっちだよ〜〜〜ん」 子バカにしたようなジョセフの声に振り返ったティトゥスの網膜に、弓なりに右の拳を振りかぶっているジョセフが映る。 「な……」 絶句したティトゥスへ子バカにした声音から一転、真面目な声でジョセフは独りごちるように呟いた。 「そんなバカな……と……言う」 「そ……そんな馬鹿な! 何故一瞬で後ろにッ!?」 ジョセフは振り返ったティトゥスの背後で、空中に浮いている自分の上着を視界の隅に捉える。 「正体不明の攻撃を喰らうのはコリゴリだからな。視力を一瞬だけ奪えば、適当に前を攻撃すると思ってたぜ」 ジョセフが何故、一瞬にしてティトゥスの背後に移動できたのか!? 説明するとこうだッ! ジョセフは海水に濡れたまま完璧に乾いていない全身から波紋を用いて水を指先に集め、 そのプリンにティトゥスの注意を払わせておき、不意に爆発させて視力を一瞬奪う。 しかしそれは視力を奪うことだけが目的なのではない。 義手を破壊されて満足に動かない左手が、どうしても不自然な動作を見せてしまうことから注意をそらせるためでもあったのだッ! 水のプリンに注意が向いている隙に壊れた義手で上着を破り、すぐに脱げる準備をする。ティトゥスの視力が奪われた瞬間! その上着を右手で素早く脱ぎ去り、『蛇首立帯(スネックマフラー)』の要領で上着を棒高跳びの棒として用い、 ティトゥスの上を跳躍、背後に着地するッ! それは視力を奪われた瞬間、闇雲に見えない攻撃する可能性を見越してのことだ。 戦いの最中『一瞬だけ』視力を奪われれば、 自分を守るために前方を攻撃、もしくは防御するであろう敵の心理をジョセフはついたのだッ! 「女を人質に取ったことを詫びるんだなッ!」 波紋を帯びたジョセフの拳がティトゥスの顎先にめり込んだ。 筋骨隆々と逞しい腕力と波紋の効果が合わさったジョセフのパンチは、的確にティトゥスの顎先を殴り抜いた。 波紋の伝達を示す鉛玉を打ち込んだような音と共に、バチバチと波紋がオーバーロードする音が聞こえたかも知れない。 「ゲフッ!」 ティトゥスは5メートル程背後に吹っ飛び、芝生の上をすべるようにして停止した。 「ハァハァハァ……完璧にぶち込んでやったぜ」 全盛期の頃の波紋の力があれば、これで一週間は立てないはずだ。 本気で波紋を体内に流すことができれば、心臓麻痺を起こして殺すことさえできるのだ。 ティトゥスがピクピクと指先を震わせているのを視認したが、しばらくは動けないであろうと確信したジョセフは、 人質にされていた少女を助け起こすためにうずくまる。 もう一度視線を巡らせ、異常なまでに巨大な腕は目の前から消えているのを確認した。 やはり21世紀は謎だらけだ。 「おい、大丈夫か? ねーちゃん」 ペシペシと軽く少女の頬を2、3度叩くと、少女は頭を振って目を覚ました。 「首は、しばらく後が残るだろうけどよ、ま、大丈夫だ……歯を引っこ抜かれなくて良かったな」 「……ここは!? あたしは……!?」 「ねーちゃんの方が俺より詳しいだろ? オレは良く分からねえからな」 少女はゆっくりと上体を持ち上げると、芝生に座った姿勢のまま左右を眺めやる。 「ハインツ……シアエガ……」 少女はゆらりと立ち上がると、ハインツと呼ばれていたであろう男のスーツを拾い上げると、それを胸に抱きしめた。 「ま、何にしても、早くこっから逃げた方がいいぜ」 「……」 ピィィィィィィィィィ!!!! けたたましい笛の音が空港に響く。その音にびっくりして同時に反応したジョセフと少女は、 空港の管制塔から走り寄ってくる、何人もの武装した警備員を眼にした。 「あいつらだッ! あいつらが騒ぎを起こして飛行機を盗もうとしてる奴らだッ!」 「オーノーッ! オレは飛行機を盗むつもりなんてねー!」 だが……オレの周囲には首のない人間の死骸があるし、何よりこの時代の人間じゃあねえ。 説明しても精神異常者と思われて、病院にぶち込まれるのがオチだ、と、なれば…… ジョセフは滑走路の隅に止まっている飛行機に瞳を転じた。エンジンが掛かっているようだ。 「逃げるんだよぉぉぉ〜〜〜」 少女の腕を掴んだジョセフは、警備員の静止の声を振り切って、一目散に飛行機に向かって走り出した。 「ね、ねえ、ちょ、ちょっとッ!」 少女が抗議の悲鳴をあげたが、ジョセフの腕力に逆らうことはできない。引きずられるようにしてジョセフと共に飛行機に乗り込む。 「何だぁぁぁ?」 ジョセフは飛行機のコクピットの座席に座り、見慣れないスイッチ類を前にして首をひねる。 「操縦桿はあるけどよ〜……訳の分からねえモンばっかりだぜ」 「……飛行機を操縦したことはあるの?」 「プロペラ飛行機なら操縦したことあるぜ」 「プ、プロペラ……降りるわッ!」 「待て待てッ! 今降りてったら、警備員に捕まるぜッ! いや、あのティトゥスってのに殺されるかも知れねえ」 「……」 「お、これだな?」 少女の腕を掴んで降りられないようにしたジョセフは、適当にスイッチを動かして飛行機を走らせ始める。 「よし! これで空を飛べるぜ。危ないから座ってな」 ジョセフは隣の座席に少女を座らせると、ゆっくりと操縦桿を引き上げる。 ジョセフ達を乗せた小型旅客機は、エンジンをバーストさせて空へと浮き上がった。 「結局、警備員の言った通り、オレが飛行機泥棒になっちまったな」 ジョセフは窓から地上を見下ろして、ふう、とため息をこぼした。 「クッ! ルルイエを連れ去れてしまうとはッ!」 ティトゥスは空港の金網のフェンスを身軽に乗り越えて舌打ちをこぼす。 あの大男の攻撃は想像の域を越える不思議なものであった。 魔法書を取り出す様子がなかったためマギウスではなさそうだが、魔術とは違った不思議な能力を持っている。 二度もその能力の前に屈するとはッ! ティトゥスはジョセフの攻撃で顎先を強かに殴られたが、ギリギリのところで経験が身を守った。 拳は確かに届いていたが完璧に届いていたのではない。思い切り後ろに飛んで何とか急所を捕らえられるのを防いでいた。 そのため警備員がルルイエ断章と男に殺到していく最中に目覚め、一度この場を離れることを余儀なくされたのだ。 ティトゥスは空港から離れ、盗んできた車を違法駐車した場所まで走る。 男の正体などはどうでも良い問題だが、大きな問題がある。それはあの男が戦い慣れていることと、ルルイエと同行していることだ。 飛行機の航路は少し調べればすぐに分かる。よってルルイエと男が向かった先を知ることは造作もない。 しかし果たして、あの男「だけ」を首尾よく倒せるだろうか。 空中での襲撃、つまり皇餓の攻撃で殺してしまった場合、飛行機の爆発でルルイエが黒こげで回収不可能になる事は想像に難くない。 それでは大導師の意に反することになる。 ルルイエを逃がしたと疑われる可能性もある。 何より、C計画の成功が不可能な物、そうでなくとも大きな支障となる。 「まさかこんなことになるとはッ!」 ティトゥスは自らのミスが招いた失敗を悔い、彼にしては珍しく、血が出る程に奥歯をかみ締めた。 「へぇぇぇ、なるほどなぁ」 ジョセフは何度も頷いて飛行機のコクピットに腰を沈めたルルイエの話を飲み込んだ。 「やっぱりオレの予想通り、ギャングの仲間内での争いだった訳だ。  だがよぉ〜、その魔術ってのはズルいな。そんな能力があるのなら、オレが必死に波紋の修行したのはアホみたいだぜ。  俺も波紋じゃなくてそっちを修行すれば良かったぜ」 機長が座る座席にふんぞり返って前方の計器や機械に足を投げ出して座るジョセフは、つま先を上下に揺らしてルルイエに尋ねる。 「で? ルルイエ、あんたはその魔法書ってことになるのか?」 「……そう、私は『ルルイエ異本』の断章体、ルルイエ異本の人格を有する箇所……」 「オレにはただの女に見えるがなぁー」 「……ところで、あなたのことは教えてもらってないけど。あたしが話したんだから教えてよ」 「本当のことを言っても信じてもらえる訳ねー」 「そうかしら? 表の世界にいたあなたは魔術と魔道書のことを簡単に納得したじゃない。あたしがそれより物分りが悪いって言うの!?」 曲がりなりにも『意識ある本』である彼女は納得いかないと言った口調で言った。 「そうは言ってねえがよぉ、普通信じねえよな。タイムスリップなんて」 「え?」 ルルイエは目を大きく見開いてジョセフの横顔を注視する。 「オレはジョセフ・ジョースター。ジョジョと呼んでくれていいぜ。  1949年のニューヨークで不動産業を営んでいる……いや、営んでいた、か。  飛行船から落ちたら、この2000年のアメリカにいた」 「……」 「ほら見ろ、信じてねえ」 トリッシュの顔に浮かんでいるのは、どう好意的に見積もっても疑心だけだった。 「信じてくれるとは最初から思ってねーよ。  だけどよ、あんたがその魔術とやらのウソみてーな話をしてくれたからよぉ、オレも話してやったんだぜ」 「……まあ、いいわ。その話がウソでも本当でも、あたしを助けてくれたことには変わりないから」 「物分りいいじゃねーか」 「……それで、あなたはこれからどうするつもり?」 「さあなぁ? オレは元の時代に戻れればそれでいいんだが、その方法がまったく分からねえ……  チクショー! ルルイエみたいな追われてる女を助けるんじゃなくて、どこかの金持ちの令嬢でも助けりゃあ良かったぜ!  そうすりゃあ、戻る方法が分かるまで、そこで世話になれたかも知れねえ。  ……この状況じゃあ、オレもそのブラックロッジって組織に追われちまうぜッ! オーノーッ!」 ジョセフは大袈裟に頭を抱えて叫んだ。 「あなたを巻き込むつもりはないわ、これはあたしの問題なんだから。  ……マスターテリオンがあたしを殺そうとしているけど、あたしは簡単に殺されはしない。  あたしはハインツ達のためにも生き抜いて見せるわッ!」 「ほう……」 ジョセフは拳を握り締めて誓うルルイエの顔を眺めると、その顔に映る決意の強さに感心する。 「オレもどうせやることがねえし、あんたを手伝ってやるぜ」 「え? 何であなたが……?」 「体(本)だけが必要で頭(人格)がいらねぇから殺す、なんて野郎は許しておけねー……それだけだ」 ジョセフはまぶたを閉じると、自分の愛娘ホリィの無邪気な笑顔と、女房であるスージーの無邪気すぎる笑顔を脳裏に浮かべた。 (オレならそんなことは絶対にできねえ。人間のやることじゃあねえ) ジョセフがまぶたを閉じているのを見たルルイエは、それ以上何も言わず同じようにまぶたを閉じて身体を椅子に深く沈めた。 ……飛行機は迂回ルートをとりながら、ブラックロッジの本拠、そしてブラックロッジに抗する者達の本拠、 アーカムシティーに向かっていた。 「それでな、ルルイエって名前はどうも呼びにくい、後ろのルイエの部分をもじってルシエ、と呼んでかまーねーかな?」 目を閉じたままジョセフが呟いた。 「え?」 「呼び方だよ、ヨビカタ、ルルイエ断章、とかルルイエ異本じゃどーにも馴染めねーしな、駄目かい?」 「え……それはかまわないけど」 「なら、ルシエも一回ねとく事だ、地上に降りたらしばらく寝れねーぞ、多分」 「そうね、そうするわ」 五大湖上空 「でっかく迂回したし、もう大丈夫だろ、ルシエ、燃料とか大丈夫だよな?」 「大丈夫だと思うわ、この機体、大陸横断用の機体だったみたいね」 燃料系は半分以上残っている事を指していた。 「そいつは良かったぜ、燃料切れで墜落なんてなーシャレんなんねーからな」 ジョセフは一息ついてルルイエの方を見ると、彼女の表情は曇っていた。 「どうした、ルシエ、なんかあったのか?」 「何か、巨大な物が接近しているわ……これは、デウス・マキナ!」 言い終わるより早く、何かが近くを通り過ぎ、飛行機が揺れた。 「な、なんだありゃぁ!」 「……ッ! ロードビヤーキー!」 「ロードビヤーキー? さっき言ってた鬼械神って奴かい?」 「そう、ロードビヤーキー、ハスターに仕える者、風のデウス・マキナ! 搭乗者はクラウディウス!」 「……その通りだ、察しが良いな、ルルイエ断章」 キャビンから声が聞こえた。 ジョセフがそちらに向けて構えを取ると、そこにはティトゥスが立っていた。 「ゲッ! さっきのサムライ!」 「先程の事は謝罪しよう、貴公は真の強者、全力を持って、お相手いたす」 (うう……最悪の展開だ、外にはよくワカランが飛行機の速度より何倍も早い鬼械神とか言う奴、さらに今度のこいつは油断してねぇ。  さらに今度は逃げるって手段が不可能だ……どうする? どうすればいい?) ジョセフは思考を巡らせる、どうすればこの最悪を脱出できるのか。 さっきのような策は当然とれない、今度こそ魔術とやらでやられるだろう。 波紋を機外から通すか? ……それは、不可能だ。 指向性をもって波紋を通す事は可能だろうが、そのためには相手が立ち止まっていなければならない上に放つとすれば床からしかない。 どう考えても飛んでる飛行機の昇降口に立ち止まったままって居るとは思えない。 その後どう行動するかは予測不能、例えば壁を通ってくるかも知れない、極端な話、魔術とやらで浮いてしまってもいいのだ。 そして思考の中を一本の線が通り抜けるのを感じていく。 (待てよ……もしかしたらできるかもしれねえ) 備え付けの冷蔵庫からコーラを手に取る。 ついでに冷蔵庫に入ってないコーラを床にぶちまけた。 「ケッ……やってみろ! だが、さっきお前が言ったように『覚悟』がいるぜ!」 「よかろう、なれば拙者も全力を持って」 そこまで言った途端コーラが爆発する。 コーラの栓がティトゥスの眉間目掛けて発射され、切り取ったシートで弾き落とされた。 「下らぬ、それが貴公の言う『覚悟』か?」 突きの構えを崩さぬまま、両断された栓が床に落ちる。 「なれば今度は貴公の覚悟を見せて貰おう……」 一瞬だけ腰を落とす。 ジョセフは悠然と立ったままだ。 そして数瞬の間でティトゥスが刀の間合いの直前まで接近し、動きが止まった。 「油断ならぬ貴公の事、何かを仕掛けているな……」 「だが、近づかなきゃ俺は倒せねぇ、デウスマキナとやらで吹っ飛ばしたらルシエの奴をつれてけねーからな」 コーラを捨てた、中身がばらまかれる。 (向こうも戦い慣れていやがる……波紋でコーラの栓を弾き、栓にしみこませた波紋で動きを止めてやろうとしたってのによぉー……  しかしシートなんて一体どうやって切り取ったんだ奴は……  だが、これは『チャンス』だ、奴が近づいてきている、当然波紋を流すチャンス!  とはいえ、足下に転がるコーラすら警戒している、と、すれば、波紋をそう簡単には流せない) にらみ合いが続いた。 「キャアアアアアアアアア!」 叫び声がすぐ近くで聞こえた。 「ルシエ!」 振り向こうとしたが、それはできなかった。 「ジョジョッ!」 「正対した敵に背を向けるは即ち死ぞ……ジョジョとやら」 後ろから含み笑いが聞こえてきた。 「ナイスだぜティトゥスちゃんよー、これでルルイエ断章の確保は成功だぜ」 「クラウディウス、確保したならば立ち去るが良い」 「そうはイかねーぜティトゥスちゃん、そのデカ物は俺が殺すぜ、OK?」 「何をたわけた事を! この男は拙者と戦う、お主はルルイエを確保する、そう決めたであろう!」 「シラねーなそんなこたぁ! こんなでっけー奴だぜ? なぶり殺すのが最高だろ!」 ティトゥスとクラウディウスの注意が、確実に二人から逸れた。 ジョセフは足元のコーラに目を向け、日本の栓を同時に発射する。 反応が送れたクラウディウスは手に栓をくらい、はじき飛ばされる。 その隙をついてルルイエはジョジョの元へ走る。 彼女の目は誇り高き瞳が宿っていた。 「ジョセフ・ジョースター! 我は汝と契約す!」 一瞬のうちにルルイエの体がジョセフの体と融合する。 ジョセフは何がなにやら分からないうちにマギウス・スタイルを取っていた。 「ク……ッ!」 ティトゥスの眼光が鋭くなる。 クラウディウスはその眼光を受け流しながら。 「さぁて、これでコイツをブッ殺す必要が出てきたって訳だなぁ、ティトゥスちゃんよ」 「貴様、わざとやりおったな……」 ジョセフを間に挟んで両者が睨み合う。 その間に、ルルイエは一気にジョセフへマギウス・スタイルの説明と、術式サポートに回ると言う事を説明し終えた。 「とはいってもよ、俺は魔術なんて使えねーぜ、どうすんだ?」 「魔術とは異界の力、あなたの世界の力も使えるはずよ!」 (だとすれば、あの宇宙で見た力も使えるかもしれねぇ……) 「隠者の紫(ハーミット・パープル)!」 ジョセフの言葉と共に、ジョセフの腕から紫色の−資質無き者には見えぬ−蔦が生えていた。 「AND波紋ッ!」 紫の蔦は膨大な力を解き放ちながらティトゥスとクラウディウスを取り囲んでいた。 「ウオオオオッ!」 両者が苦悶の声を上げて悶える。 「ク、ウウウウッ!」 一瞬だけ痙攣して、倒れた。 倒れた事を確認して、マギウス・スタイルを解除する。 そしてティトゥスが侵入してきたハッチに向かう。 「ルシエ、とにかくこの飛行機はもう駄目だ、あのデウス・マキナとか言うの、動かせるか?」 「え、ええ、難しいけど、何とかなると……」 直後に、ジョセフの背中に多数のコマが直撃していた。 「ジョジョッ!」 「ぐ……」 ジョセフは何も言わずに倒れ込む。 ルルイエの視界、ジョセフが倒れた向こうに、少年の姿をした幽鬼が立っていた。 「クラウディウス……」 「舐めた真似しやがって……この、ダボが……」 見ると、ティトゥスも痙攣しながらソファーに手を掛け、起きあがろうとしている。 ジョセフは、暫く戦える体ではない…… こんな状況で自分に何が出来るのだろう。 「――そうよ、出来ないわ……」 ルルイエは静かに顔を上げた。その顔には怯えの色が浮かんでいた。 けれど。 「私には……何も出来ないかも知れないけど、その中でも最も出来ないことは!  恩人を置いて逃げるってことだわ! 私はジョジョを見捨てたりなんか出来ない!」 ルルイエの目が決意に満ちた。 「やるしかない! 何がどうなっても! この場で奴らを、ブッ倒すしかない!」 ――ルル、イエ。 聞いたことのない女の声。それでいて長く慣れ親しんだような響き。 「だ、誰? どこにいるの?」 ──ズット、前カラ居マス。   アナタガ書カレタ時カラ、イツモアナタノ傍ニ居マシタ。   私ハ、イツダッテアナタナノデス!   アナタ自身ノ能力デス!   命令ヲ、シテクダサイ。 彼女は『その存在』を感じて、肩越しにゆっくりと振り向いた。 ルルイエの背後には、彼女の『力』の像が、ワルキューレのごとき堂々たる姿でたたずんでいた。 ――何ガ出来ルカハ、コレカラ知レバ良イコトデス。   大事ナノハ貴女ガ決メテイルトイウコト!   何カヲスベキダト、貴女ガ『決心』シテイルコトデス! 「な、名前、あなた、名前はあるの?」 ──スパイス・ガール 「そう……一味、違うのね」 彼女の決意はより堅く。 そして、彼女の瞳はより強く、敵である二人を見据えていた。 「ワケわかんねぇ事ほざいてんじゃねーぞ!」 クラウディウスは手持ちのコマを全てジョセフに向けて放つ。 シートをいくつも貫通しながらジョセフに迫る。 ルルイエは笑う。 そして目前に迫ったコマは、手前のシートに弾き返されていた。 「なっ!」 慌てて方向修正を加え、自分に直撃する事は避けた。 だが、それでも幾つかのコマは修正しきれず、肩や足を強打する。 「……何だよ、奴はただの人格体で、何も力なんか持ってねぇはずだろ! なんで、なんで僕がやられなきゃなんないんだよ!」 コマを魔力で回収し、幾度と無く二人へ向けて放つ。 その度に弾き返され、体を削っていき、いつしか魔力も体力も尽き、クラウディウスは倒れ込んだ。 『屍食教典儀ッ!』 いつの間にか起きあがったティトゥスが二振りの刀を顕現させ、ルルイエに斬りかかる。 最早、この状態では、躊躇してはこの二人には勝てぬとそう判断していた。 どうなろうと、既に『二人』を殺すという結論に達していた。 「スッとろい!」 だが、それも最早叶う物ではなかった。 「WANABEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」 スパイス・ガールの連打が、ティトゥスを捉え吹き飛ばした。 ハッチからコクピットの壁まで吹き飛ばされ、叩き付けられた。 「く……う……」 「とにかく、今はこの飛行機から脱出しないと……あのデウス・マキナ、私に制御しきれるかしら……いや、やるしかない!」 ジョセフを抱え、目前のデウス・マキナ『ロードビヤーキー』に手を伸ばす。 「……皇……餓」 ティトゥスが声を振り絞った。 そして、飛行機は皇餓の拳で吹き飛ばされ、爆砕した。 ルルイエも、ジョセフも、クラウディウスも、そしてティトゥスすらも吹き飛ばされ、眼下に広がる五大湖へと落着した。
ルルイエ&ジョセフ:勝利&スタンド覚醒、ただし生死不明 ティトゥス&クラウディウス:敗北、生死不明


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